ブランドビジネスに関して

ビジネスとしてブランド商売にはかれこれ18年ほど関わっており、自分なりに考えを整理しようと思う。

 

ブランディングとは何か。それは目に見えない価値に名前をつけ、その名前のイメージをよくすることによって、その名前が冠された商品やサービスの値打ちを上げる行為全般である。

ブランドとはその歴史が裏付ける価値であり、長期的で丁寧なコミュニケーションの戦略だけがブランドを育み、顧客の満足度と信頼を高める。人は見えないイメージにお金を払う。物が満ち足りた現代ではより一層その傾向が強まっている。

 

見えないものを売ることになるので、非常に複雑かつ奥深い。人はいったい何に価値を見出すのか?人がお金を出して支払っているのは、「そのもの自体の価値」ではなく、「そのもののイメージも含めた全体としての商品」なのである。その「イメージ」を作り上げるのがブランドビジネス、ということになる。

例えばフレグランスビジネスなどは究極のブランドビジネスである。売っているものはただの香りのついた水である。言ってしまえば。それが100ml数万円で飛ぶように売れる。何故か。

顧客は香りではなく、そのブランドのイメージに大きな価値を置いている。ただの「良い香り」であればその辺のドラッグストアで1000円も出せばゴマンとある。彼らがお金を出すのはクールなブランドの良い香りが見せてくれる「幻想」なのである。

 

顧客は夢を見るために今日もブランド品を買うのである。

 

ランドビジネスは奥が深い。著名人を起用したPRはブランド価値を高める非常に一般的な方法だが、現在はいわゆるインフルエンサーの裾野もかなり広がっているうえ、発信するメディアの選択肢も様々だ。それぞれのブランドとそのブランドが目指す方向性に合致するように戦略を組むのは非常に難しい。

さらに流通面ではあえて供給量を絞って顧客の枯渇感を醸成したり、さらには「価値のあるブランド」であることを敢えての「高い値段付け」によって逆説的に訴求する方法もある。(エルメスなんかはそれで成功している)そして一度ブランディングが良い方向に進み始めると、加速度的に盛り上がり、「流行」が形成される。ここまで到達するブランドは多くある。

 

しかし、ここから、なのである。ブランドビジネスの本当の難しさは。「ブランド価値を維持すること」。これに成功するブランドは驚くほど少ない。ブランドの本質的な価値に関して、顧客からの真の理解と、長期的な信頼を勝ち取るのは並大抵の話ではない。長期的な、(できれば双方向での)顧客とのコミュニケーションが継続する必要がある。そしてその理解と信頼が失われたとき、それを回復するのはとても難しい。(ほとんど不可能と言ってしまっても良いかもしれない。)

 

顧客が一度格好悪いと思ってしまったブランドを再び格好良いと思うことはほとんどないのである。

 

下がってしまったブランドイメージを、元の状態よりも上げるのはとても難しい。近年ではバルミューダの苦境がこれを如実に表している。彼らはモバイル事業の失敗により顧客からの「クールでスタイリッシュなブランドとしての」信頼を失ってしまった。いったん下がってしまったものを上げるのは、これまでも特別な下落を経験していないブランドのポジショニングを上げることよりもずっと難しい。

 

なので、ブランドビジネスにおいて、「表向きの華々しさ」とは対を成す、「顧客との丁寧なコミュニケーション・信頼醸成」は一番大事なポイントなのである。無数にあるインフルエンサーブランドが長期的に成功する事例がほとんどないのは、前者でブームを作ることに長けた彼らが、後者をしっかり行うマンパワーと体制がそもそも整っていないのが理由であろう。

 

人は見えないものに価値を見出す。そして価値を認めなくなれば簡単に他に乗り換える。そもそも価値を認めていたのは「目に見えないもの」であり、特になくても困らないものなのだから。一度失われた信頼は取り戻せないし、顧客は二度と振り返らない。

 

これを肝に銘じて今日もブランドビジネスに取り組む。人という実在が作り上げる「目に見えないもの」の価値を信じて。